牧師 山口 雅弘
今から7年前の夏、ドイツのベルリンで、ダニエル・バレンボイムの指揮のもとに「東西ディヴァン・オーケストラ」の演奏会があった。音楽会のテーマは、「戦争の代わりに音楽を」であった。私はその折に、ベトナム戦争の時に、「愛し合おうではないか、戦争ではなくて」と言われていたことを思い出した。
バレンボイムは、イスラエルのパレスチナ侵略とそこに住む人々の殺戮に批判の声を挙げてきた人である。また、「反ユダヤ主義」というレッテルも貼られることがあった。彼は、それでも仲間と共に「自分のできること」をし、「命の尊さ」を音楽をも通して訴え続けてきた人である。
彼が指揮したオーケストラは、ユダヤ人のピアニストで指揮者であるダニエル・バレンボイムと、パレスチナ人の思想家で大江健三郎とも親交のあったエドワード・サイード(故人)が協力して創設した管弦楽団である。半世紀以上にも及ぶパレスチナ紛争、あの泥沼のような争いの中で、何とか音楽を通じて相互理解と和解を実現できないだろうか? そのことをこの二人が考えたというのだ。
そこで色々な人の協力を得、多くの苦労の連続の中で、その夢の実現に向けて努力し、このオーケストラを作り、演奏活動を始めたそうだ。
先ずバレンボイムとサイード、またその仲間たちは、パレスチナと、その他アラブ諸国の中から若い音楽家を招く。そしてイスラエルの音楽家たちも招く。本当ならば敵対している国の人たちである。事実、演奏会に至るまでに多くの問題があったようだ。
しかし、その音楽家たちやスタッフの人たちは「招き」に応え、互いの違いを受け入れ合いながら「一つのハーモニー」を奏でる音楽を生み出していこうとした。そのことは、非常に勇気ある試みであろう。多くの人たちは、それは無謀な企画だと批判の声をあげたと聞く。
私はこの話を聞き、今日の世界、また私たちの日常生活の中で、「愛」とはそのようにして実現していくのではないかと思わされた。(続く)
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